■ 雷鼓4 ■





「神子殿―?・・・・おかしいですね、確かこちらの方に行かれたと思ったのですが・・・」

花梨を追いかけて、浜辺の方へ歩いて来た幸鷹達は彼女の姿がなかなか見えて来ない事に少し焦りを感じ始めていた。
そんなに間をおいて追いかけて来たつもりは無いのだが、見渡す限り少女の姿は無い。
岩場の影に隠れて見えないのだとは思うが、少しの間だけであっても彼女が自分達の目の届かない所にいると思うと心配になってくる。
どう見ても、庶民が身につける様な物ではない狩衣を羽織っている彼女が一人で歩き回るのは危険なのである。

「神子殿――!」

頼忠も同じ事を考えたのであろう、大声で花梨を探し始めた。




花梨は頼忠や幸鷹達の意外にすぐ傍の岩場の影にいた。
少し奥の方に居た為、彼等には見えなかった様である。
声に気付いた彼女が、幸鷹達に合図をしようとした瞬間である。
いきなり後方から羽交い絞めにされて、口元もごつごつした大きな手に覆われてしまった。

(な、なに?!)
突然の出来事に花梨が戸惑っていると、鳩尾を強い力を感じて、次の瞬間には意識を手放していた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「へぇ、この娘がねぇ・・」

「童女の様だけど・・」

「でも、見てみろよ!この肌・・きれいだよなぁ・・・」

「ちょと、なにしてんだよ!こんな小さな娘に!お頭に知れたら、どやされるだけじゃすまないよ!!」

「ってえなぁ、わあってるよ!」

とある屋敷の一角、数十名の海賊たちが仲間の連れ帰った少女を一目見ようと人垣を作っている。
少女の周りは、数少ない女性陣で囲まれていた。
勿論、男達から少女を守る為である。
前の国守であった幸鷹の連れを攫って来たと聞いて、彼女達は攫われてきたまだあどけない顔をした少女を守ると決めたのである。
幸鷹の事は嫌いでは無かった、むしろ感謝すらしている。
それに、少女には触れてはいけない様な、汚してはいけない様なそんな雰囲気があった。

「う、・・・・んん・・」

周りが騒がしかったからか、どうやら少女が目を覚ました様である。
皆が見守る中、徐々に目を見開き、ゆっくりと起き上がった花梨は見慣れない部屋に戸惑いの声を上げた。

「あ・・・の・・・、ここ・・何処?」

沢山の厳つい男達に囲まれているからか、少し怯えた様な声で聞いた花梨を安心させるようににっこりと笑いながら、一人の女性が答えた。

「ごめんなさいねぇ、お嬢さん。うちの若い者が手荒な事をしちゃったみたいで・・。なんでも、前の国守をからかってやるんだって言ってね・・。ホント、馬鹿なんだから・・、明日には帰してあげるからね。少しだけ、我慢しておくれ。」

「はぁ・・、あの・・貴方達は?」

まだ状況が良く掴みきれていない花梨は、さらに問いかけた。

「俺達か?ここいらを根城にしている、海賊さ。あんたには悪いが、少し俺達の退屈しのぎに付き合ってもらうぜ?」

「ああ!海賊さんですか!」

翡翠と同じ海賊だと言う事で、何となく安心してにっこり笑った花梨に、海賊さんと言われてあまつさえ、安心した様に笑われてしまった当の海賊たちは、あっけにとられた。
暫くの間、しんと静まり返っていたが何処からとも無く笑い声が起こり、辺りは爆笑の渦に包まれた。

「わはは、海賊さんだとよ!」

どうやらさん付けで呼ばれた事がうけたらしかった。

「私、何か変な事言ったかな・・?」

困惑する花梨をよそに、暫く笑い声は止まなかった。




前頁   次頁