高倉花梨が、龍神の神子としての役目を終え、幾日か経ったある穏やかな日の事である。 彼女の姿は、八葉である幸鷹と頼忠の二人と共に、伊予の海辺にあった。 応龍を召還し、百鬼夜行を封印したものの限界まで体を酷使していた花梨は、 その後数日間意識不明で、意識が戻ってからも暫くは起きあがる事すら出来なかった。 結局、そうしている間に元の世界に還る条件の揃った日を逃してしまった為、 半年もその日を待つ事となったのである。 その事を八葉や紫姫達が密かに喜んだのは言うまでもない。 花梨は体が回復してから取り立ててする事もなかった為、この世界を色々見て回る事にした。 居候させてもらうのだから、何か下働きでもいいから仕事をさせて欲しいと言ったのだが、 紫姫に「神子様にその様な事はさせられません!」と泣きながら訴えられて敢え無く断念した。 かといって貴族の姫の様に過ごす事も出来ずにこの世界を見聞(観光)するという事に落ち着いたのだ。 さすがに、女の子一人で出歩くという訳にもいかず (花梨は別に構わなかったのだが、紫姫や八葉達が大反対したので) 常に八葉の誰かにお供に付いてもらっている。 伊予に来るのであれば、本来翡翠に同行してもらうのが一番良かったのだが、ここ数日姿を見せないので、こちらの方に用事のあった頼忠と幸鷹に同行してもらう事にしたのである。 まだ時間は有るのだから、翡翠が花梨の所に来た時にすればよかったのかもしれないが、どうも最近、いや百鬼夜行との戦い以後辺りから翡翠に避けられている様な気がしていた花梨は、敢えて翡翠の居ない時に伊予へ行く事にした。 一度伊予の海を見てみたかった。 翡翠の好きな海。 翡翠の生きている世界を少しでも覗いてみたかった。 例え自分のこの想いが、届く事が無くても、届けるつもりが無くても、思い出だけは沢山、沢山持って還りたい。 「うわぁ、きれーい!」 青い、澄んだ水が穏やかに岸辺に打ち寄せている。 現代では到底見られない、とても美しい光景である。 心地よい風に当たりながら、両手を上に上げて全身をのばした花梨は、突然後ろをくるりと振り向き、 申し訳なさそうに頼忠と幸鷹にあやまった。 「頼忠さんも、幸鷹さんもお仕事忙しいのにこんな所まで連れてきてもらっちゃって、御免なさい。」 「いえ、神子殿が御自分の世界へ戻られるまで、後数ヶ月しかありません。私達八葉は、皆少しでも長く貴方と御一緒したいと思っているのですよ?」 花梨らしい言葉に、幸鷹がにこやかに答える。 頼忠もそれに同意する様に頷いた。 「や、やだなぁ・・そんな風に改まって言われると照れちゃいますっ。あっでもそう言ってもらえるとホント嬉しいです。」 「あの、ちょっと向こうへ行ってきますねっ。」 本当に照れくさかったのであろう、花梨は顔を真っ赤にして、またくるりと向きを変えると海辺の方へ走って行った。 「ああ、そんなに走っては危ないですよ!」 幸鷹が慌てて声を掛けるが、花梨は大丈夫、大丈夫と言ってどんどん先へ掛けて行ってしまった。 その様子を微笑ましく眺めながら、幸鷹はふうっと溜息をついた。 「彼女は全然解っていないのですね・・、私達八葉が皆どれだけ彼女の傍にいたいと思っているのか・・。」 「幸鷹殿・・・。そうですね・・。だからこそ・・。」 頼忠も同意して、眩しそうに花梨が居る方向を眺めた。 次回予告(^^) 海辺で花梨がある海賊達に連れ去られます。 翡翠さんももう少し出番が多い筈です。 同人誌で出していたマンガの小説Ver第2弾です。 続いてしましたした・・・。 但し、続きは出来ているので(文章を直すだけ)すぐにUP出来ると思います。 後1回か2回で終わる予定。(おまけを入れると3回?) |